降臨せし風雷神のために
作品ID | ISP015 |
サイズ | 40x88cm |
技法 | 彩版画 |
備考 | 江戸琳派継承画家である伊藤哲先生が、江戸琳派の祖である酒井抱一へのオマージュの念を込めた屏風作品、「降臨せし風雷神のために」の版画バージョンを完成させました。 <彩版画について> 特殊顔料インクの研究開発および特殊製版技術とシルクスクリーン技法の融合によって、原画の持つ雰囲気と色彩の再現がなされています。加えて、特にシルバーとゴールドの箔打ちの再現には優れたテクニックが駆使されています。 ※額付きサイズは59x106cm (画家のことば)制作後記 尾形光琳の「風神雷神図」と抱一の「夏秋草図」は、現状は別々の屏風作品であるが、元は、表側に光琳作の風神雷神図が金箔地に描かれていて、その裏側に後年の依頼により、抱一が銀箔地に夏秋草図を描いたものだった。 抱一からしてみれば、表裏一体の関係があって初めて成立する作品であったに違いない。 この構成の真の狙いを確かめるべく二つの図像をライトテーブルの上で重ね合わせて透かしてみたところ、図像が見事に組み合わさり、その計算したとしか思えない構図は、まさに天と地の融合をイメージさせるものであった。私の勝手な推測ではあるが、抱一は夏秋草図屏風の左右上部の大きな空間に、目には見えない神様の姿を想像させるという、粋な計らいを仕掛けたのではなかろうかと思った。 素朴な行為からの発見ではあったが、その感動が今回の制作の始まりであった。 現在、通常の「夏秋草図屏風」の展示や画集では、向かって右隻に夏草図、左隻に秋草図が配置されている。 しかし、「降臨せし風雷神のために」では、右隻に秋草図、左隻に夏草図を配することにした。それは、風神と雷神の左右のコンポジションにも由来するのだから当然といえば当然であるのだが、抱一は屏風への落款を秋草図の右下に、夏草図の左下に署名・押印している。一双屏風の場合、一般的に落款は各隻の外側に入れるものである事を踏まえると、抱一は右隻に秋草図を、左隻に夏草図を配するように考えて落款を入れたのではないかと思うに至った。それと、水流と吹き上げられる葛が織り成す対角線構図が全体に統一感を与えている点にも注目して、構想を練った。 今回の制作では途中に他の制作が入ったこともあって、構想から完成までに約三年の月日が流れた。幾つかの準備作業を経て、目の前に立ちはだかる銀屏風は、切り立つ北壁の様にも見えて、始めはどうなるかと危惧したが、数ケ月の試行錯誤の作業の末、漸く描き上げる事が出来た。技術的にも精神的にも本当に勉強になる制作であった。 最後に、美術史学者で北斎館館長・萬美術屋の安村敏信先生、出光美術館学芸員の廣海伸彦氏、NPO法人江戸琳派継承会の酒井抱美氏はじめ会員の方々から、多くのアドバイスや温かい御言葉を頂戴し、大変勇気付けられた事にこの場をもって深く感謝申し上げます。 平成三十年初春 雨華庵 伊藤 哲 |